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「何一つ無いが、それを差し引いて余るほどの大空がここからは見えていた」
勘違い、食い違い、相違、ズレ。
疑問が積み重なるそのたび、目の前にいるはずの先輩が遠くなる。
「あの時飛んでいた空はどうだったか。もう忘れてしまったが……」
まるで夢から覚めるように、何かから解放されるように自分の目が心が目の前の人間を正しく認識し始める。
「とかく懐かしい。あぁ……懐かしいなぁ」
そして僕は、ひどく今更な問いを口にした。
「あなたは誰ですか」
キャンバスから顔を上げたソレが、こちらに微笑みかける。
「先輩さ、君のね」
さも当然のように答えるソレは僕が問いを口にするよりも早く、続けて口を開いた。
「ロケットにな。……乗ってきたんだ、今日」
突如ロケットがひゅーっと、安っぽいロケット花火のような音を立てて空を裂く。
途端にその傷口から満天の星空が飛び散った。
「壮絶だったよ。感情が溶け出すようだった!」
その夜空に溶け出すようにして、突如打ち上げられたロケットはその輪郭を失ってゆく。
「それから空の奥へ……奥へ。そしたら、急に放り投げられて」
まるで水彩絵具がバケツに消えてゆくように夜空に溶けてゆくロケット。
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