何もない絵

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しかし最後の一片。ロケットの先端だけはそのまま輝きを増して夜空に一文字(いちもんじ)を引いた。 「それで、気付いたら」  そうして気づけば。 「ここに居た」  僕は満天の星空の中にいた。 「そうか…思い出した。宇宙飛行士だ!」  僕は朦朧(もうろう)としてゆく意識の中で先輩を、声の主を見た。もうそいつは、ただの白いモヤになっていた。声と威勢(いせい)だけはそのままに、ここには居ない空夢(そらゆめ)のような存在となり果てていた。 「帰らないとな、空へ。……帰りたいからな、空に」  僕もまた輪郭を失い。ただの【僕だったもの】になってゆくようだった。 一体何が正しいのか。どちらが上か、下か。それともこれは左なのか。そんなことすら忘れていた僕に突如として「ははは!」という豪快な笑い声が掴みかかる。 「君も帰れ。こんなトコロで寝ている場合じゃないだろう?」  寝ている? あぁ。そうかも知れない。 夢を見過ぎていたのかもしれない。  そう自覚した瞬間、すべてが真っ白に染まった。 意識が覚醒(かくせい)する。忘れていた手足の痛覚が徐々に戻ってゆく。 「あぁ、どうやら本当に夢を見過ぎていたらしい」 そんな感想を残してふざけた世界を去ってゆく僕に対し、夢はとびっきり皮肉めいた笑みで捨て台詞を吐きかけたのだった。     
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