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屋上にて
「君。もしこの屋上から出れなくなったらどう思う?」
先輩が僕の方を向いてそう言うので、僕は率直に答えた。
「嫌ですね」
ふおぅと吹いた風で足元の落ち葉が巻き上げられる。
ちょっと目線を上げれば低い一軒家から突き出たビルやマンションが生い茂る。
ここは僕の通う高校の屋上だった。
「なんだ、つまらない奴だなぁ君は」
僕の答えがよほど不満だったのか唇を尖らす先輩。
そのまま自分の居場所へと逃げ帰ってゆく先輩の背中に僕はテキトーに語り掛ける。
「あいにく、人に語れるほどの夢や理想は持ち合わせていないものでして」
「嘘でもいいから持ちあわせておきたまへ。その年で夢に飢えているなど見るに堪えん」
「自分は見世物ではありませんが?」
僕の言葉に答えるようにして先輩が強引にイーゼルから椅子を引きはがして座る。
自分もまたイーゼルに乗せられたキャンバスにHBの鉛筆を振るう作業を再開した。
その場にまた静寂が訪れる。
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