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“A69”
ゆっくりと瞼を持ち上げると、手の甲にボールペンで書いた数字が目に入った。僕の番号だ。社員番号。働き始めてもう3年になるが、いつまで経っても覚えることができない番号。確か今日も、出勤してすぐに手の甲にメモをした記憶がある。
メトロの扉が開く、足元に置いていたリュックを手に取り駅のホームに降りた。最寄駅から4つも先の駅まで目が覚めなかったようだ。大きく息を吐いた。
いつものことだ、と頭のなかで小さく呟く。
─ A69 A69 至急部門管理室まで ─
僕が働いている工場では、従業員を番号で管理している。
ロッカーに差し込まれている名札部分も、タイムカードの名前を記入する部分も、呼び出しも、名札も、従業員同士も番号で呼び合う。
入社当初は違和感があったものの、名前の読み間違いもなければ書き間違いもなく、確かに効率的で楽であるように思う。
僕は部門管理室まで小走りで向かった。
“A24”の名札をつけた上司が僕の顔を見るより先に名札を確認する。
ここは監獄かなにかか?時々思う。
監獄に入ったことはないけど、囚人番号で呼ばれているボーダーの服がよく似合っていた俳優が思い浮かぶ。あの映画、なんて映画だったかな。
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