511人が本棚に入れています
本棚に追加
「今週の金曜日の夜、あいてるか?」
圭一は前を向いたままぼそりと呟いた。高沢がこちらを向く気配がした。
「あいてるよ」
電車内で交わした会話はそれだけだった。
「ビールととりのから揚げと枝豆とハムとレンコンのチーズ焼きお持ちしました!」
高沢は注文の品を持って来た店員に爽やかに礼を言い、よく冷やされたビールに目をきらきらさせながら、半分ほど一気に呷った。
「良い飲みっぷりだな」
「ザルだって呆れられるよ。中原は酒が進んでないな。普段あまり飲まないのか?」
圭一は焼酎のウーロン割を二口飲んだだけだった。
「全く飲めないってわけじゃないけどな。アルコールを飲むと、体調を崩すんだよ」
昔は1杯飲み干すのも辛かったが営業職に就いてる以上、取引先との接待の場で飲めないと断るわけにもいかず、多少は飲めるようにはなったが、それでも2杯が限界だった。許容範囲を超えるとすぐに激しい頭痛や吐き気を催した。
そんな圭一だから居酒屋には付き合い以外では入らない。
「だったら居酒屋でなくても、ディナーで良かったのに。でも男二人で週末のディナーは奇異な目で見られるよな。飲めないならしっかり食えよ」
そう言って高沢は何か注文するよう勧めてくる。
「高沢が何が好きか分からなかったから居酒屋にしただけだ。それに俺は美味い店に詳しくない」
高沢の前では、いつもしどろもどろになって圭一は上手く喋れなかった。そんな自分がもどかしくて、情けなかった。
最初のコメントを投稿しよう!