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「あ、ごめん」
高沢がスラックスのポケットから震動するスマートフォンを取り出し、耳元に押し当てる。
「うん…遅くなる。そう、俺の飯はいいから…」
すっきりと通った鼻筋にくっきりとした二重瞼。高沢は昔から二枚目だったが、頬の膨らみが消え、顎の線が鋭角的になった分、男らしさが増していた。
交際中の相手がいてもおかしくはない。むしろいないほうがおかしいだろう。高沢は誰が見ても魅力的な男だ。
電話を終えた高沢がスマートフォンをポケットに戻す。
「悪かったな。付き合わせて」
「言ってあったんだけどな、俺の話ちゃんと聞いてないんだよな、あいつは」
高沢は困ったように苦笑しつつ軽く肩を竦めた。圭一にはそれが照れ隠しだと分かった。
何かを期待していたわけじゃない―――。
二人の間にあった出来事はとっくに過去のことだ。
戻れるとは思っていない。
なのにふと気がつくといつまでも過去を手放せずにいる自分がいる。
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