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度の強い黒縁メガネをかけ、量が多めの前髪が重く額に落ちている。よれよれのグレーのセーターに、サイズの合わないデニム。
鏡の中には、背中を丸めるようにして椅子に座る僕がいた。
「静くん~~! お姉ちゃんの”弟改造大作戦”が出来上がったよー!」
愛らしい少女が、ノートを胸に抱えながら僕の部屋へ入ってくる。
――このシーンを、僕は知っている。
既視感に目まいがしそうになる。
にこにこと笑いかけてくる姉は、まだ高校生だ。
僕の腕を掴みながら激しく泣き崩れる大学生の姉の姿が、フラッシュバックのように脳裏をよぎる。
あれは、夢なのか!?
「静くん、顔色、悪いね」
心配そうに僕の額に手を当てる姉。「熱はなさそうだけど……」
胸が苦しくて苦しくて、僕は思わず姉の左腕を強く掴む。
「……どうしたの、静くん?」
いや、あれは、夢ではない。
紛れもなく、現実だった。
どんな力が働いてるのか想像もできないけれど、僕は時を遡り、2年半前に戻ってきたのだ。
あの悲劇の運命から逃れるチャンスを与えられて。
まだ震えの残る手のひらをきつく握り締めながら、僕は、強く心に誓う。
今度こそ僕は道を誤らない。
父さんも母さんも姉さんも、必ず、僕が守ってみせる……。
新しい運命の輪が回り始めた。
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