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彼は、北寮中庭の植え込みに隠れるようにしながら、寒そうに自分の肩を抱きしめていた。
胸がトクンと跳ねる。
入学式の日に出会った彼だと、その後ろ姿を見た瞬間にわかった。
「この周囲を封鎖するように」
背後に控える風貫に告げる。
「はっ」
風貫が警護の一人に目配せすると、トランシーバーで警護隊へと命令が下る。
「しばらく視界に入らない場所で待機していなさい」
「かしこまりました」
警護の者達が立ち去り、僕はゆっくりと少年の傍に歩み寄った。
疲れ切った様子の彼は、近づく僕の気配には気づかない。
制服の上着を脱ぐと、寒そうに縮こまる背にそっと掛けた。
「シャツ一枚じゃ寒いだろう?」
振り返った少年の瞳とぶつかって、たまらなく胸が疼く。
あぁ、僕は、もう一度この少年に会いたかったのだ……。
「諜報部の仕事かい? どこの隊?」
聞かなくても本当はわかっている。彼は蒼の親衛隊に入ったに違いない。
入学式の日、僕は彼が恋に落ちる瞬間を見たのだから。
「……西城、様……?」
「僕のことを知ってるのかい?」
名前を呼ばれて、喜びがこみ上げる。
彼が自分の名を知っていた。たったそれだけの事が、こんなに嬉しいなんて。
「何だか幽霊でも見たみたいな顔だね」
中庭に設置されたオレンジ色の常夜灯が、彼のあどけない表情を照らし出す。
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