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今、僕をかばうようにして立つ乾様の姿を見ながら、神代先輩はどんな気持ちでいるのだろう……?
縛り付けられていた磁力が取り払われたかのように、身体がふっと軽くなる。
小さく目礼すると、神代さんが驚いたような表情を見せながら、僕に向って深くお辞儀を返す。守護対象者が初対面の一般生徒に挨拶する事などありえないのだから、驚くのも無理はない。
今の僕たちは、同じ親衛隊に属する先輩と後輩ではないのだ。
「更科様、後ほど改めてご挨拶にうかがいます」
更科様達の会話が途切れたタイミングを見計らって、そう声を掛ける。
「お待ちしています」
僕の言葉に対して、更科様がにっこりと微笑を返して下さる。
軽く一礼して、僕はその場に背を向けた。
神代さんが卒業した後、乾隊の中で僕へ真実の言葉を語ってくれる人はいなくなった。皆、乾様の寵愛を受ける僕を厭い、妬み、こびへつらい、あるいは僕の心と身体を手に入れようとした。
そうして嫉妬と欲望の渦に巻き込まれながら、僕は、ただひたすら乾様の愛にすがる事しか考えられなくなっていったのだ……。
「山崎君」
外の風に当たりたくてテラスへ足を向けた僕に、軽やかな声が掛かる。
「羽賀様」
「様付けで呼ぶのは無しにしようって言っただろ?」
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