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そうだ。編入してきたばかりの僕が、西城様が夜会に出られない事を当然のように語るのはおかしい。
「さすが、パートナーに関する事は、中等部での様子もいろいろ把握してるんだね」
言葉に詰まり、思わず俯いてしまう。
「じゃあ、俺はあっちの方に顔出ししてくるから」
そう言うと、前方にいる2年生のグループの方へと歩き出す。
その背を見送りながら、僕は心の中で自分自身を叱咤した。
(相手が羽賀先輩だからって、気を抜き過ぎだ。ここにいる守護対象者達は、ライバルの思惑を探るためにこの場に来てるんだ。気を抜いたら足元をすくわれる事だってある……)
――その時、自分の思索の中に沈んでいた僕は、"彼"がこちらに向かって歩いて来る事に気づいていなかった。
誰かが上げた小さな悲鳴が、突然、耳に飛び込んでくる。
「静流!!」
僕の名を呼ぶ鋭い声。
驚いて顔を上げると、僕に向って見知った男性が駆け寄るのが見えた。彼の手の中で白い物が光る。それがナイフだと気づいた時には、その男の能面のような顔が眼前にあった。
激しくぶつかり合った衝撃で、体が横に吹き飛ばされ、そのまま激しい勢いで床に転がる。
辺りが悲鳴と怒声に包まれる。
頭部を強打したためか、瞼を開けているはずなのに目の前が真っ暗で、白い光点だけが激しく瞬く。
「乾様!!」
泣き叫ぶ声。
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