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ライトを胸ポケットにしまった後、看護師が僕に問い掛ける。
「ご自分の名前はわかりますか?」
「山崎静流です」
「頭部以外に痛みがありますか?」
「いえ、ありません」
遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。
「起き上がれますか?」
「はい」
ゆっくりと体を起こす。
「首に痛みはありませんか?」
「ありません」
手足を軽く触診した後、もう一度横になるよう促される。
「担架で運びますので、このままじっとしていて下さい」
「乾様のご様子は……!?」
看護師の男性が困ったように僕を見やる。
「頭部を打った時は、体もそうですが、気持ちを落ち着かせる事も大切なんです。……今、確認してきますので、動かないで下さいね」
複数台のサイレン音が重なりながら大きさを増し、すぐ近くで止まった。
数秒の後、会場内に慌ただしく駆け込んでくる複数の足音が聞こえた。
警護隊員達の囲みが解かれ、代わりに四、五名の救急隊員に取り囲まれる。
「これから、ヘリにて港区の慶慈会病院へ搬送します」
責任者らしい男性の言葉に、僕は驚いて顔を上げる。
「敷地内の病院に向かうんじゃないんですか!?」
「念のため、しっかりした設備のある病院で診てもらいましょう。私も同行します」
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