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僕が西城隊に入隊しなかったら、西城様のパートナーにならなかったら、こんな事件は起こらなかった。僕が別の選択肢を選んでいたら、もっと別のシナリオがあったはずなのに……。
救急車が管理施設等に横付けされ、ストレッチャーのまま屋上へと運ばれる。移動のエレベーター内でも響いていたヘリの騒音は、屋上に着くと数倍の威力で僕たちの鼓膜を打つ。
プロペラの巻き起こす旋風と耳をつんざくエンジン音に逆らうようにしながら、ヘリコプター内へと運び込まれ、ヘッドセットを装着される。轟音からは逃れられたものの、耳の奥ではさっきまでの残響が唸るように響き続けている。
『離陸します』
操縦士だと思われる男性の声が、ヘッドセットから聞こえた。
浮き上がるヘリの揺れが、僕の体の小刻みな震えをごまかしてくれる。
体の震えを止められないのも、喉が塞がれたように呼吸が苦しいのも、機体の振動や気圧の変化のせいだけではない。
(僕のせいで――)
講堂の床に飛び散っていた鮮血は、乾様の出血の激しさを物語っていた。切り付けられたナイフは、きっと左腕の動脈まで達していたのだ。だとしたら、失血による死の危険さえあった。
(あの時、乾様は命を落とされたかもしれなかった……)
僕は、目の前が真っ暗になるような恐怖に心が塗り潰されていくのを感じていた。
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