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「室井様にとって向こうは故郷のようなものですし、世界トップレベルの環境でバスケットができるのは素晴らしい事だと思います」
「ありがとうございます」
「3年在学中に行かれるのですか?」
「はい。スポーツ選手にとって十代の1年間をどう過ごすかは、能力値に大きく跳ね返ってくるので」
「なるほど、そうなんですね」
海星聖明には海外名門大学へ入学するための飛び級卒業制度があって、高校3年の夏に卒業するという選択肢を取る事もできた。
「……山崎様の事は、よろしいんですか?」
(「伸――」)
耳元に、静流の唇から一瞬こぼれた落ちた優しい響きが甦る。
「いろいろ吹っ切らなきゃかな、って思ってます」
川瀬さんは、たぶん俺の気持ちに気づいていると思う。
諜報部長に至っては、静流の様子を繰り返し報告させる俺の事をストーカーのように思っているかもしれない。
静流が寮に戻らなくなった当初、川瀬さんは、俺があまり笑わなくなったと心配していた。山崎様がいた時はあんなに楽しそうでいらしたのに、とポツリと呟く事もあった。
自分ではよくわからないが、そうなのかもしれない。
静流がいなくなって以前より部活動に注力するようになったのは、無意識に心の中の空虚さを埋めようとしていたのかもしれない。
「静流自身が決めた事ですから」
「……はい」
どこか寂しそうに川瀬さんがうなずく。
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