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東京都下とは名ばかりの辺鄙な地にある学園から家へ戻るのに、バスと電車を乗り継いで3時間以上かかった。両親に連絡すれば車で迎えに来てくれたのだろうが、退学処分を受けたことを話すのがつらくて、黙って一人帰途に着いたのだ。
家族には、家に帰ってから直接話がしたかった。
学校で僕の味方をする者は誰もいなくなっていたから、胸の内に秘めてきた事を、何もかも洗いざらい家族に打ち明けたかった。
重い荷物を引きずりながら、精神も肉体も疲れ果てて、僕はようやく家に帰り着いた。
僕にとって唯一の安息の場所。
ここには、僕を心から愛してくれる家族がいる。
大好きな両親と姉の下へ帰ってこれたというだけで、ボロボロに傷ついた心に温かいものが流れ込んでくる気がする。
「ただいま」
返事が返ってこない事を不審に思いながら、玄関を上がってリビングへ向かう。
大きなスポーツバッグを抱えながらリビングに入ると、ソファに座る姉の後ろ姿が見えた。
「姉さん?」
僕の呼びかけにゆっくりと振り返った姉が、驚いたように僕を見つめる。
「……静くん……」
真っ青な顔をした姉が、はじかれるように立ち上がり、僕に駆け寄ってくる。
「静くん! 静くん! 静くん!!」
痛いほどにしがみつきながら、叫ぶように僕の名を呼ぶ。
「お父さんとお母さんが……!!」
姉が悲鳴にも似た小さな声を上げ、やがて、言葉にならない嗚咽へと変わる。
僕は、その瞬間、全てを悟った。
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