第2部 Another Heaven Ⅰ [過去]

1/75
1179人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ

第2部 Another Heaven Ⅰ [過去]

[14. 高校1年・春【優斗】] 初めて出会ったのは、入学式の日。 外部入学生だった彼は、広大な学園の敷地内で迷い、途方に暮れているようだった。 天使のように愛らしい面差(おもざ)しが戸惑いと不安に(かげ)る様から、目を離せなくなる。 美しい人間なら嫌というほど見てきた。でも、目の前の少年の儚げな美しさは、何かが違っていた。 「外部入学生か?」 隣を歩く蒼が彼に声を掛け、僕は驚いて親友へと視線を移した。 蒼は見ず知らずの人間に声を掛けるようなタイプではない。ましてや、困っている相手に手を差し伸べる事などしない男だ。 「入学式に行くつもりならついて来い」 外部入学生の少年が驚いたように目を見張る。そして、次の瞬間、彼の視線が蒼に捉われるのがわかった。 しなやかで美しい野獣のような親友に、多くの人間はあっという間に夢中になる。そんな光景を幾度も見てきたはずなのに、その時、僕の胸にかつて感じたことのない痛みが走った。 その痛みの正体がわからぬまま、僕はただ、この少年が蒼のものになるだろうことを確信していた。 そして、あの夜。 4月の終わりで、()が落ちて急激に冷え込み始める時間帯。     
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!