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第3部 Lapse of Time [現在]
[23. 序幕/決別]
目を覚ますと、カーテンの向こうから朝の日差しが差し込んでいる。
(……夢、か……)
また、あの頃の夢を見た。
初めての恋に溺れ、限りなく幸せで、でも同時にその愛を失う恐怖に心を擦り減らしていった日々。
ゆっくりと瞼を閉じると、夢の中の記憶が残滓のように心に広がっていく。
(「俺のものになるか?」)
あの日、乾様はそう言って僕を抱きしめてくれた。
到底手が届くはずがないと思っていた尊い方が、僕だけを愛すると誓ってくれた奇跡のような夜。
愛しい男性に抱かれながら、僕は痛みと快楽と幸福の中で幾度も涙を流した。
愛していた。
あの方を愛すること以外、何も見えなかった……。
(「俺のものになるのが、そんなに嫌か?」)
燃えるような激情を宿した乾様の瞳が、脳裏に甦る。
学園を追放されたあの日から、2ヶ月半が経とうとしている。
あれほど手酷く切り捨てられたのに、僕の恋心はあの方を忘れられないでいる。もう一度、愛の歓びに満ちた日々を取り戻したいと、心のどこかで願ってしまっている。
けれど、今の僕は知っている。
盲目の恋が、全てを無残に破壊してしまう事を。
だから、今度こそ悔いることのない自分でありたい。かつての自分が辿った道程を繰り返すことなく、正しい道を選び取っていこう。
もう僕は、乾様のものじゃない。
乾様の親衛隊員だった僕は、もういない。
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