1181人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
第4部 Another HeavenⅡ [過去]
[40. 高校2年・春【伸】]
その時、半ば駆け足で体育館へと向かっていた俺は、管理施設棟の連絡通路から出てきた人影に気づけなかった。
「あっ!」
小さく上がった驚きの声と左肩への衝撃。
慌てて左へ視線を転じると、俺にぶつかってバランスを崩した静流を、隣にいた長身の男が抱き止めるのが視界に入った。
「静流、大丈夫か!?」
俺の言葉に静流が伏せていた目を上げる。
「大丈夫です」
「急いでて周りを見てなかった。ごめんな」
「いえ、僕もちゃんと前を見ていなかったので。失礼しました」
よそよそしい口調に胸が小さく痛む。
「……たまには南寮にも戻ってこいよ」
静流が乾のペントハウスで暮らすようになって半年近く経つが、表向きは南寮で俺と同室という事になっていて、部屋は以前のままに据え置かれている。
「伸――」
俺の名を呼ぶ、懐かしい響き。
「山崎君、乾会長がお待ちだ」
背後にいた男の低い声が静流の言葉を遮る。
乾隊警護4席の水樹 要。無骨な武士のような雰囲気を纏う大柄な男は、一瞬鋭い眼差しで俺を見据えた後、おもむろに頭を下げた。
「室井様、大変申し訳ございませんが、急いでおりますので」
最初のコメントを投稿しよう!