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戸惑わなかったわけではない。けど、幻想的な夜に、真実に触れられるような気がしたんだ。
扉が閉まると、彼女の顔をじっと見た。きれいだ。後ろに立って、掌で指先で彼女の輪郭をなぞり顎先を持ち上げる。震えに耐えられず、噛みつくようにキスをする。苦しそうに呼吸を乱していることに気がつき慌てて顔を離した。目の前の出来事が、嘘か真実か、判然としない。
ただ、耳の後ろがどくどくと脈打っている。今さら、躊躇ったとして何がどうなる。空に伸ばした腕で強く抱きしめる。力を抜いて腰に手を回し直すとひどく冷たく、「風邪、ひくから、」と言いかけた言葉に返事はなく、胸に顔を押し当てられて、ゆるゆると壁際に押しやられる。
俺は、されるがまま、床にへたりこんだ。首元が苦しくて指先でネクタイを緩める、と、シュルシュルとそれを解かれてボタンを外される。
濡れた上着は自ら脱ぎ捨てた。
彼女の目に、何が見える。
ぐらつく不安と高揚感に思考回路が遠くへ押しやられる。熱を持った首筋へ、冷えた指がつたう。
背筋にぞくりとした感覚が走り、つばを飲み込む。スカートの腰のフリルを撫で付けて、まだ意識があることを主張する。
中枢が焼ききれそうに熱い。
逆光の中の彼女の吐息が、急いている。
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