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【3】polarization
彼方の空に虹がかかっていた。
七色の光が、明けの空に、ぼんやりと。
隣を行く彼女が『虹だ…!』と初めてみる笑顔で今にも駆け出しそうに はしゃいでいる。
きれいだ、と、俺は、言うことができなかった。少しのかなしさが邪魔をした。しかし、彼女に合わせて、顔には微笑みを。また、ひとつの嘘を重ねて。
私の前から、虹のよう消えてしまいそうな彼女のことを、ただ、抱きしめた。
心が甘く淡く満ちる。
ボロボロと崩れるような酷い孤独を、包む光。
あなたといると何もかもが満ちて、醜い自分の形が、その発光によって変えられていく。確かにならないそれを、この身体の感触を頼りに、現実なのだと意識へ染み込ませていく。
そうしてまた嘘かどうかわからない日が繰り返された。
ある日暮れ 堤防沿い芝生を歩きながら、彼女は、言った。
『虹が見たい。』
微笑んでいる横顔が、青空に美しく。それは、幸せになりたいと同義なのだろう。
光へ ----
私達が歩く未来は いつまでも平行線で、彼女が虹を望むなら、光の下へ行かなければ。
頭の中で、雨音が傘を打つ。バラバラバラバラ止めどもなく。
私自身が、止まない雨に、光の届かない闇の中に、明くることない世界を作るために駒を進めているのだから。
「終わりにしたい。」
「他に好きな人ができたから。」
私は、うまく嘘がつけたのだろうか。
『...そう、ですか。』
こちらを振り向かないで彼女は言った。
彼女は頭がいいから。彼女は強いから。彼女は明るい光になれるから。
乱反射を繰り返す ひどく眩しくて
私は
私を見失う
叫んでいる 喉が枯れるくらいに
あなたを輝かせるために生まれてきたのだと
言えなくて
零れた涙が あなたの光に照らされて 虹を作る
-了-
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