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二年生も終わりに近づく三月。
昇降口を出てすぐのところにある桜の花はまだ開かず、硬い蕾が枝にあるのみ。そんな今は見処のない桜の木を見上げながら、俺はたった今言われた言葉を反芻していた。
『優しくしてくれてありがとう。いい思い出になったよ』
……思い出にされちった。
実はこういうことがよくある。よくっていうか、この学校に入ってから会った子たちは皆、そう言って俺をふっていく。
俺はモテる。非常にモテる。めちゃくちゃちやほやされている。一度でいいから抱いて~! なんて毎日言われている。
いや、なんで一度? 一生愛してくれよと言うけど、絶対本気にとられてない気がする。
……悲しくなってきた。帰ろう。ご近所に住むホモバーのマスター(この言い方をすると怒られる)に慰めてもらおう。めちゃくちゃ美人で、十回土下座すると一回くらい抱かせてくれる床上手である。
「あ」
マスターのことを思い出して浮上しかけた心は、ある男の姿を見て地下深くまで沈み込んだ。
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