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余談
「証拠の品、ってわけじゃないですが……これ、ハンスさんの遺骨です。とても脆くて、焼いたらこれくらいになっちゃいましたけど」
薄い帳の向こう側で、女は「そう」とだけ、素っ気なくこたえた。
丸いガラステーブルの上に置かれた小さな瓶の中には、ざらざらとした、不揃いの白い塊が詰め込まれている。
「セヴィー・ハーグマン。彼を殺したのは貴方?」
ぱちん、ぱちん。
扇子の開閉音が、涼やかな声で話す女のいらだちを表していた。
「いいえ、まさか。あんな怪物、僕じゃ返り討ちにされちゃいますからね。助っ人に、手伝ってもらいましたよ」
詳しく言わなくとも、女は助っ人が誰なのか知っているだろう。着飾った年増と侮ってはいけない。
セヴィーは黙って、女が口を開くのを待った。
察しの良すぎる女との会話は、段階を踏めば踏むほど、いらぬ不興をかうだけだ。
「――そう。彼は、負けてしまったのね」
落胆の声。
するすると衣擦れの音が聞こえ、セヴィーが顔を上げるよりも先に「もう良いわ」と声がかかる。
「これ、どうします?」
「捨てて。彼もそう、願うはずだから」
しゃらしゃらと、髪飾りが音を立てる。
金細工の美しい髪飾りは女の故郷で葬儀の際につけられるものだったが、セヴィーは気づいていない振りを通し「御意に」と頭を垂れた。
女は終ぞ、小瓶に目もくれず、甘い残り香だけをおいて、寝所へと戻っていった。
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