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ニールは「よいしょ」とニッキーを抱え直し、寝間着のズボンをまさぐった。
大事なものをしまっている宝箱から引っ張り出してきた、手触りの良いハンカチを口に当てる。
ニッキーの毛並みがまだ新品だった頃に出会った、名も知れぬ青年がくれたものだ。
転んで涙ぐんだニールを優しくぬぐってくれたハンカチは、ほっとする優しい香りが残っていた。
「良い香りだね」
たまに後宮ですれ違う、第二皇妃がつけているあまったるい匂いが苦手で、思わず顔をしかめるたび、ニールは恐ろしい顔で睨まれていた。
だからか、香水のたぐいは苦手だったのだが、ハンカチの残り香だけは違っていた。
ニールはすんすんとハンカチを嗅ぎながら、当てもなく、広い後宮をぶらぶらと歩く。
特別な感じのするこの時間帯は、何か、特別なことが起きるような気がしていた。
もしかしたら、もう一度あの青年に出会えやしないだろうか。
淡い期待は、ニールの幼い心をときめかせていた。
「ニッキーも、会いたいよね? ぼくもね、もっとたくさんお話がしたいんだ」
綺麗なお兄さん。
とはいえ、詳細を思い出そうとしても顔はうろ覚えで、名前も素性もニールはわからない。
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