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ただ、ばあやは綺麗なお兄さんが誰であるのか知っているようだったが、訊ねても嫌そうな顔をしてはぐらかしてくるので、諦めていた。
友達はニッキーだけしかいないが、好きな人はいる。
この世に生を受けてから、一度も母と顔を合わせたことのないニールにとって、ばあやは信頼を寄せるべき家族だった。
身の回りの世話をしてくれるメイドたちも、年の離れたお姉さんと慕っているし、なにより、兄のアルファルドはニールが唯一会話の出来る肉親だ。
我が儘を言って、大好きな人たちを困らせたくなかった。
ニールには理由がわからないが、第二皇妃の身辺を固める召使いたちは、ニールとアルファルドに冷たくあたることが多かった。
ばあやは表向き快活にニールの世話をこなしているが、嫌がらせにため息をついている姿を知っている。
「会えないかなぁ。もういちど会って、今度はちゃんとお名前を聞くの」
嗅ぎすぎて匂いが消えてはいけないと、ニールはハンカチをポケットにしまった。
早朝であるために、人の気配はない。
皇帝ヴァルラムの妻子が住まう後宮は、城の奥深くにあり、開放的に見えるが警備は厳重だ。
――厳重でなければならない。
ニッキーをぎゅうっと抱きしめて、ニールは大きく息をつく。
かすかに期待をしているが、同時に、絶対にないだろうとも感じていた。
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