皇帝の血 5

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「戦場以外では役立たずなんだ、口答えしてんじゃねぇよ。仕事があるってのは、いいぞ。役立たずの穀潰しだって後ろ指を刺されなくてもすむからな」  人差し指で胸を小突かれ、踏ん張っていたのによろめく。なんて、馬鹿力だろうか。 「役立たず、ってのは心外ですね」 「違わねぇだろ、俺だってそうだ。敵を切って捨てるのは得意でも、平時には何ら必要のない能力さ」 「……だから、男遊びに興じているのですか?」  小突かれた胸をさすりながら噛みつけば、ヴァレリーは拳をそのまま飲み込んでしまいそうな大口を開けて笑った。 「男遊び? あんなもん、ただの精欲処理でしかない。生理現象ってやつだ。道ばたに糞尿を垂らすのと同じだよ」  噛みついたものの、易々と返され、ニールは言葉を飲んで呻いた。 「で、オレに誰を守れと? 何から?」  負けたようで悔しいが、喧嘩をしていてもらちがあかない。  内容がどうであれ、ニールは引き受けざるを得ない。英雄であろうと、上官の前では部下でしかない。 「どれほどの期間、護衛すれば良いので? 近々、叙勲式があると思われますが? さすがに、そちらをすっぽかすわけにはいきません」  戦場を転々と渡り歩いてきたニールが、長い休暇を帝都で送っている理由は、英雄としての功績をたたえるための叙勲式を控えているからだ。     
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