皇帝の血 5

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「簡単に言うが、他人事じゃあねぇだろう? 皇位継承権を放棄したとはいえ、皇子であることに変わりはない」  あんたが言うなよ。と毒尽きたくなるのを懸命に押さえる。 「皇帝なんかに、なるつもりはないですよ。その資格だって、持っちゃいないですし」  今も昔も、ただ、平穏に生きているだけで良かったのだ。  命を狙われ、狙うような、そんな血なまぐさい世界に生きたいわけではない。  国なんか、欲しいと思ったことは一度もない。 「お前にその気がなくとも、政治家たちは浮き足立っていやがるぞ。せいぜい、とばっちりをくわねぇように、気をつけるんだな」  封筒を軍服の内ポケットにしまい、ニールは「ご忠告、どうも」と突き放す。  いまさら、ヴァレリーに言われるまでもない。 「――で、お前に任せる仕事だが。護衛する要人は、第四皇妃の息女エリシア様だ。西にあるレディヘイムの視察に同行し、御身をお守りしろ。顔合わせは明日、仕事の詳細はそれに詳しく書いてあるそうだ」  帝国貴族の娘、フィアナ第四皇妃が産んだ第一皇女エリシア。  若干十歳の、帝国唯一の姫。  ニールの異母兄妹にあたるエリシアの護衛が、ニールに与えられた仕事だった。
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