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あの、綺麗なお兄さんに出会えたのは奇跡だったのだ。
本来ならば、近づいただけで殺されかねない場所なのだ。
「そろそろ戻らないと、ばあやに怒られちゃうね」
朝を告げる鳥の声が、後宮に響きだした。
ニールだけの、特別な時間の終わりを告げる鐘の音。
赤く色づいた落ち葉を踏んで、ニールは元来た道を戻ろうと足を止めた。
その時だ。
みんなが寝ているはずの後宮に、足音が響いた。
ニールは驚いて、ニッキーをぎゅっと抱きしめた。
「誰だろう?」
かつん、こつん。
だんだんと近づいてくる足音に、ニールは大きな瞳をさらに大きくさせた。
「お兄さんかな!」
会いに来てくれたのだろうか。
勉強を嫌がるニールに、ばあやは「良い子にしていれば、神様がご褒美をくれますよ」と説いた。
勉強の後にくれるクッキーは嬉しかったが、ニールが望んでいたご褒美はお菓子ではない。
ニールはニッキーを放り出す勢いで、駆けた。
毎晩、寝る前に神様に「お兄さんに会わせてください」とお願いしていたから、きっと、一生懸命、勉強を頑張ったご褒美をくれたにちがいない。
ニールは胸を躍らせ、足音のするほうへと駆けて行った。
吹き抜けから差し込んでくる、目も眩む、鋭い光に目を細める。
「お兄さん?」
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