皇帝の血 1

4/5
前へ
/207ページ
次へ
 あの、綺麗なお兄さんに出会えたのは奇跡だったのだ。  本来ならば、近づいただけで殺されかねない場所なのだ。 「そろそろ戻らないと、ばあやに怒られちゃうね」  朝を告げる鳥の声が、後宮に響きだした。  ニールだけの、特別な時間の終わりを告げる鐘の音。  赤く色づいた落ち葉を踏んで、ニールは元来た道を戻ろうと足を止めた。  その時だ。  みんなが寝ているはずの後宮に、足音が響いた。  ニールは驚いて、ニッキーをぎゅっと抱きしめた。 「誰だろう?」  かつん、こつん。  だんだんと近づいてくる足音に、ニールは大きな瞳をさらに大きくさせた。 「お兄さんかな!」  会いに来てくれたのだろうか。  勉強を嫌がるニールに、ばあやは「良い子にしていれば、神様がご褒美をくれますよ」と説いた。  勉強の後にくれるクッキーは嬉しかったが、ニールが望んでいたご褒美はお菓子ではない。  ニールはニッキーを放り出す勢いで、駆けた。  毎晩、寝る前に神様に「お兄さんに会わせてください」とお願いしていたから、きっと、一生懸命、勉強を頑張ったご褒美をくれたにちがいない。  ニールは胸を躍らせ、足音のするほうへと駆けて行った。  吹き抜けから差し込んでくる、目も眩む、鋭い光に目を細める。 「お兄さん?」     
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

152人が本棚に入れています
本棚に追加