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「誠くん……またあなたの未来……見えたわよ……」
弱々しい声が後ろから聞こえた。
五時間目の持久走。今は香椎山高校の外周を走っている。振り向くと、そこには水晶玉を持ちながら息も絶え絶えに走る、星野さんがいた。
「……星野さん、さすがに持久走のときくらい、水晶玉は置いていこうよ」
「へ、平気よ……水晶玉は私の一部みたいなものよ。持ってないと落ち着かないわ」
どんな占い師なのだ。
「そ、そんなことより誠くん……ペースが速いわね……そんな調子で大丈夫かしら」
「うん。まぁね。これでも普通に走ってる方だから、無理はしてないよ」
「そ、そう……でも、私の占いによると、もう少しゆっくり走ったほうがいいわ……ま、誠くんの足に、不吉な予兆が出ているわよ……私と、同じくらいのペースで走りなさい」
──星野さんにペースを合わせたら、授業内に終わる気がしない。
また適当にごまかして、先に行くとしよう。
「大丈夫だよ。僕、全然疲れていないから。そろそろラストスパートをかけて、行くからね」
「……そう」
星野さんがまた残念そうに、そして寂しそうにうつむき、呟く。
「……ねぇ、誠くんは、占いに興味ないのかしら」
「ないよ。占いとか、興味ないから」
ほぼ、無意識に答えていた。持久走の疲れのせいもあって、何も考えていなかった。
三秒後に、僕は自分が何を言ってしまったのかを理解して、非常に後悔した。
星野さんにそんなこと言ってしまったら──。
「……そう」
星野さんは、今度こそ黙ってしまった。
やがて、僕は走るペースを上げて、星野さんから遠ざかっていく。
「……ごめんね」
振り返った先に見えた星野さんは、今にも消えてしまいそうなほど弱々しそうに見えて、僕は胸がチクチクと痛むのを感じた。
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