舞踏会編

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 その影とは、本来人のいる筈のない塔の頂上でマントを(ひるがえ)し、黒いマスクで顔を隠した男でした。  男は大声で叫びます。 「まて! このような茶番を許していては国が滅ぶ! 今すぐに中止せよ!」と。  その声は、会場に設けられた音響設備を通し、参加者や来賓(らいひん)、そして見物客たちの耳へと届きます。 「警備は何をしておった! 無礼講(ぶれいこう)とはいえテロリストの進入を許すとは何事か!」  すぐさまグルベンキアン候の叱咤(しった)が会場に響きわたり、城の警備担当者たちが塔の男を逮捕に向かいます。ところがです。塔の上で確保された男とはなんと、案山子(かかし)だったのです。  会場内は、たちまちのうちに犯人の正体に思い巡らせる人々の(ささや)く、ざわめきによって、騒然となってしまいました。
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