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菫ちゃん遅いなー。
桜はトースターを開けてキツネ色に焼けた食パンを2枚取り出した。
桜に比べて菫の朝の支度は早い。桜は背中までのロングヘアーをアレンジしたり、ファンデーションやチーク、マスカラなどを使ってナチュラルにメイクをするため、それなりに時間を要する。
一方の菫は長い髪は陸上の練習の邪魔になると、耳下あたりでボブヘアーにしているため、髪のアレンジはほとんどしない。メイクも日焼け止めとリップを塗る程度で、それ以上をして学校に行くことはない。
だから、菫の朝の準備は15分程で終わる。
そのはずなのに……
今日は遅い。せっかく焼けた食パンが固くなったら、不味くなっちゃう。
桜はワンプレートに盛れる木の皿に食パンをのせて、まだ来ない菫のいる洗面所に向かった。
「菫ちゃん?ご飯の用意できたよ?」
ノックはせずに洗面所のドアをあけたら、鏡面の前で菫が自分の香水を持って突っ立っていた。
「あ、桜……」
戸惑う菫に桜は菫の顔と香水を交互に見て、ポンと掌同士を叩いた。
「もしかして菫ちゃんもその香水気になっていた?いいよ!使っても!ぜひ菫ちゃんに使って欲しい!」
姉妹で物を貸し借りしたり、同じメイク用品を使ったりすることに、桜は躊躇いはなかった。むしろ仲良し姉妹で素敵だとも感じていた。
「あ、ごめん。大丈夫。ちょっとワックスとるのにどかしただけだから。」
菫がいつも通り淡々と対応するのに、桜は彼女に気付かれないように、小さく肩を落とした。
菫ちゃんは自分と物を共有することはない。着ている服の趣味も、髪の感じも違うから仕方ないのかもしれないけど。
私はもっと一緒に菫ちゃんと同じ物を同じように使いたいって思っているのに。
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