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「そっちに降りたいんだけど。」
成海は今にも観客席からトラックに飛び降りて来そうな感じだったが、関係者以外はトラックに入ることは禁止されている。
「無理だよ。選手とマネージャーと監督である顧問以外は入れないの。」
「厳しいんだね。」
「今日は人数が多いからね。会場が人でごった返さないようにだと思う。」
市内の大会ならもっとルーズだが、県にもなるとそうはいかない。
陸上の大会は種目も多い。ハードルに幅跳びに高飛びに……リレーだってある。トラック競技だって走る距離で分けられている。
時間差でプログラムは組まれてはいるものの、過密な時間構成になってはいる。
「すーちゃん、これあげる。」
成海が観客席から菫にペットボトルに入ったスポーツドリンクを放り投げた。
「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。」
菫は宙を舞ったペットボトルを胸の前でキャッチした。
「すーちゃんなら自己新だして、準決勝に行けるよ。」
「……。」
「だって、すごく走るのが好きなのが伝わってきたから。」
菫は手にしていたペットボトルをぎゅっと握りしめた。
成海はいつも欲しい言葉をくれる。不思議な人だと思う。
「自己新がでたら、いい子いい子してあげるね。」
「いや、それはいらない。」
って、見直すとすぐに茶化す。
そういうのに免疫がないから、未だに一瞬だが動揺してしまう。迷惑極まりない。
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