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その後、一日中出歩いていた桜に両親が何の話をしたかは菫は知らない。
もう帰ってきたのだから十分だろうと思い、自室に行き、ベッドに乗り上がり、壁に背中をもたれさせて座った。
電話……遅くなっちゃった。11時過ぎちゃった……
先生、まだ起きてるかな?寝てたら迷惑だよね?
でも、今電話をしなかったら、一生電話をしない気がする。
菫は意を決してスマホを握りしめて、もらった紙に書かれた番号を押した。
伊勢谷からもらったものは、全部置いていた。
板チョコとチョコレート菓子は、らしくないと思いながら、写真に残した。
熱が出た日にくれた手紙は机の引き出しに大切に保管している。
菫はそっと耳にスマホを押し当てた。
トゥルルル……
コールが3回鳴る。
出るかな?いや、出たら出たで緊張する。それなら出ない方がいい?
でも……先生の声が聞きたいよ。
「もしもし?」
あっ……学校で聞くのと同じ声だけど、少しハスキーな気もする。
「先生、あの神谷です。」
「遅い。ずっと待ってたのに。」
「えっ!?あ、ごめんなさい……。」
「嘘だよ。冗談。」
微かに漏れる伊勢谷の笑い声に、菫の頬は高揚して、じっとしていられなくて、投げ出した足をバタつかせた。
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