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一頻りくろの相手をして、くろがついに飽きたのか植え込みの茂みに姿を消したので、桜と成海はどちらともなくベンチから立ち上がった。
「帰ろっか。神谷、来週も来る?」
「うん。宮田くんは……用事ある?」
「大丈夫。再来週はちょっと無理かもしれないけど。」
「バイトか何か?」と尋ねようとして、桜は思い止まった。
男のスケジュールを全て把握しようとする女は、男には鬱陶しいだけと言うのを、前に雑誌で読んだことがあった。
成海に嫌がられるような行動は避けたい。
「そう言えば、宮田くんは宿題どこまでやった?」
桜は会話を自然と夏休みの宿題の話題にうつし、成海と数学が多すぎることに文句を言い合いながら、校門までゆっくりとした足取りで歩いた。
校門を出れば、左右に分かれて桜は家に成海は駅に向かうことになる。
来週にまた会えるものの、もうお別れするのを桜は名残惜しかった。
だから、少しでも会話を引き延ばしたいと思っていたのに……
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