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駅前まで行けば、すぐにでも入れるカフェもたくさんあり、直輝はチェーン展開しているコーヒー店に、半ば引きずるように桜を連れ込んだ。
「何飲む?」
先にレジで注文をして、セルフでテーブルまで運ぶ方式だ。
「アイスコーヒー……。」
「コーヒーなんて飲めたっけ?」
「うん。」
「ふーん。」
あんまり覚えないなと、感情を声色に滲ませて、直輝はアイスコーヒーとアイスカフェラテを注文した。
直輝は注文した飲み物をお盆にのせて、桜を促すように空いている奥の席に座らせた。
周りは買い物帰りの主婦や、夏休みであろう高校生などが座っていたが、桜と同じ学校の人は見当たらなくて、桜は一先ず胸をなでおろした。
修羅場になる可能性だってある。直樹が怒鳴り出すかもしれないし、知り合いに見られるのはまずい。
「さっきの男、誰?」
直輝がカフェラテを一口飲んで、じろりと桜を見た。
「えっと……クラスメイト。」
桜が直輝に返事をする声は情けないことに、すでに震えていた。
「この間、一緒にいた男と違うよね。」
直輝がいうこの間とは、テスト勉強をするために一緒に帰っていた真尋と猛のことだろう。
「それと、その髪の毛どうしたの?」
桜に話しかける直輝の声は低く明らかに不機嫌だった。
「切ったの……気分転換。」
「俺に黙って?てか、切っただけじゃなくて染めたよね?」
「……。」
桜はストローでアイスコーヒーの氷をガチャガチャと混ぜた。
確かに今まで髪を切る前や新しい服を買ったりする前は直輝に報告して、どんな風にするか二人で考えたりしていた。
その報告をすること自体が楽しかったし、彼氏の意見を尊重したいって思いが、その頃の自分には確かにあった。
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