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休みか……。
バレンタインデーの当日も真尋は学校には来なかった。今日で欠席は7日目になった。
何度となく連絡をしようと桜は思ったが、最後の送信ボタンがどうしても押せずにいた。
何で休んでいるのかなんて聞いて、鬱陶しがられることが怖かった。
伊勢谷先生なら……きっと休んでいる理由を知っているはずだ。担任なのだから。
聞いてどうする……?そんな風にも思うけど、安藤くんがこのまま本当に学校を辞めるのではないかとも思った。
桜は昼休みの始まりのチャイムが鳴ってすぐ、英語準備室に駆け込んでいた。
今日は伊勢谷先生にバレンタインデーの贈り物をする子で、訪問者が後を絶たないはずだ。他の子がいる前では、安藤くんのことは聞きにくい。
「先生!」
「おー、神谷。どうした息切らせて。」
桜がチャイムと同時に走り込んだことだけあり、英語準備室には伊勢谷しかいなくて、パソコンの画面を見ながら、コンビニのおにぎりをかじっていた。
「安藤くんって何で休んでるの?」
「……教えてあげたいけど、分かんないのよね。一応、朝には本人から連絡があって、今日は行くって言うんだけど、結局来ないし。」
「……。」
「そういう訳で、何で休んでいるのか聞きに行ってきて。今日だけ昼から早退するのを許すから。」
「私がですか?」
「君以外に安藤の気持ちを動かせるやついないでしょ。あいつ、本当にこれ以上休むと2年になれないから。」
桜は無言のまま伊勢谷に紙袋を突き出した。中には喫茶店のコーヒーの粉が入っていた。
「何これ?」
「あげます。バレンタインデーだから。甘いものはダメだと思って、コーヒーにしました。」
それだけ言い捨てて、桜は伊勢谷に背を向けた。少しでも早く真尋に会いに行きたかった。
「安藤のことよろしくね。」
伊勢谷の言葉が後押しするかのように、桜の背中を追いかけてきた。
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