フォンダンショコラとお返しに欲しいもの

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真尋の家まで電車で1時間が、桜にはものすごく長い距離に感じ、電車が駅に到着する度に、何度も駅名を確認した。 会って何を言うか……目的地に着くまでには考えはまとまらないままだった。 それに連絡もなしに来たのだ。家にいるかどうかも知らない。いたとしても出てくれるかすら不明だ。 それでも……会いに行くのを止められなかった。顔が見たい。話がしたい。傍にいたい。 桜は微かに震える指先で、真尋の家のインターホンを押していた。 人気のない社宅の通路に無機質な音が響き渡る。一回のチャイムでは出る気配はない。 迷惑をかけてしまったら……そんなことを思いつつも、もう一度鳴らし、続け様に更に鳴らした。 「はい?」 応答したのは真尋の声だと桜にはすぐに分かった。不信感を抱き、誰だよと言いたげな声だったが、真尋の澄んだハスキーな声に違いなかった。 「神谷です!あ、桜です!あの、最近ずっと休んでたからそれで……」 「えっ……ちょっと待て。今開けるから。」 ものの数分で、ガチャリと鍵が外れる音がして、いつもと変わらない真尋の姿がそこにあった。 桜が真尋を見上げると、何かあったのかと真尋は心配した面持ちをしていた。 桜が来たことに対して、非難するわけでも鬱陶しがるわけでもなく、ただ桜のことを思っている表情に、桜は止められなくてその場で瞳から涙を落とした。 「えっ!?嘘!?ちょっと、何で泣くんだよ。何か嫌なことでもあった?一人で抱えこむなって言っただろ。」 その真尋の気使いが桜には逆効果で、瞳から涙が溢れ出て、地面に雫になって落ちた。 「あー、もう。」 真尋は困り果てて後頭部を掌でさすると、小さく息を吐いて、桜の腕を引き部屋の中に連れ込んだ。
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