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玄関先ですぐに桜は真尋に抱きしめられていた。桜の背中で玄関のドアが閉まる音がした。
安藤くんから離れたくない……。
桜は真尋の着るトレーナーに体を引っ付けたまま、顔を上げて真尋を見た。
「泣き虫。」
「うるさい。誰のせいだと思ってるのよ!」
「何がだよ。」
この人、全然分かっていない。7日も休まれたら、こっちは気が気じゃないってこと。
このままいなくなるのではないかって思っては、胸が裂けるぐらい痛むこと。
「学校、辞めないで。安藤くんがいないと嫌だ。一緒に2年生になりたい。」
そう口にしたら、真尋に泣き虫って揶揄われたのに、桜はまた泣きだしてしまった。
「ちょっと待てって。誰が辞めるなんて言ったんだよ?」
もう訳が分からないと真尋は完全にお手上げ状態だった。
「だって、伊勢谷先生が安藤くんの出席日数が危ないって。このまま2年生になれないかもしれないって。安藤くんみたいなタイプはいつ辞めてもおかしくないみたいな言い方をするから。」
「伊勢谷ちゃん、心配し過ぎだから。学校にはそろそろ行かないととは思っていたんだけど、曲を作っていたら、行き損なっていうか。」
真尋は濡れた桜の頬をトレーナーの袖で優しく拭い取った。
「心配かけてごめん。」
「べ、別に私が勝手に心配しただけだから……安藤くんには迷惑だし、鬱陶しいだけだし……」
「嬉しかったけど。」
「えっ?」
「桜がこうやって会いにきてくれて。」
「……。」
……そんなこと言われたら、安藤くんの顔を直視できない。
だって、会いにきてくれて嬉しいなんて言われると思わなかったんだもん……。
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