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3月31日。春休みにも関わらず、菫と桜は制服に袖を通していた。
今日で最後だった。伊勢谷先生が先生として自分たちの学校に勤めるのは。
「桜、花束は持った?あとはお礼の手紙と……」
「先生って花束って顔じゃないけどね。」
「花束より煙草ワンカートンの方が良かったかな?」
二人で顔を見合わせてクスクスと笑った。
これがさよならではない。いってらっしゃいの思いで渡そうと、菫と桜は決めていた。
また会いたいし、その時にはもっと大人になって成長した自分で会いたい。
「成海と松田くんと、安藤くんも学校にいるって。」
三人も「伊勢谷ちゃんに挨拶をしたい。」と言ってくれたので、菫が代表として前もって誘っていた。
「菫ちゃん、そろそろ出ないと遅刻だよ。」
桜が慌ただしくローファーを履き始めたので、菫も横に並んで、同じように靴に足を入れた。
「ねぇ、菫ちゃん。」
「何?」
「もう春だね。」
玄関のドアを開けると、肩を震わすほどの寒い季節は終わりを告げていた。
そしてこれから先、何が待っているかは未知数だけど、それでも期待せずにはいられないそんな春の陽気が二人を包み込んでいた。
to be continued
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