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それなのに、すーちゃんが俺を信用して、頼れば頼るほど、俺はすーちゃんを好きになっていった。
泣いたら泣き止むまで傍にいたかったし、成海って彼女に呼ばれたら、手を伸ばして髪に体に触れたくなった。
しかもすーちゃんは俺に言った。
走ったらいいのにと。俺の撮る写真が好きだと。
そんな些細なことなのに、なぜか物凄く嬉しくて、本当は臆病になってしまった自分は、どこかで誰かにその一言を言われるのを待っていたような気がした。
「何で委員長に俺のことをけしかけた?」
放課後の英語準備室で伊勢谷ちゃんに投げかけられた。
俺は今日の2時間目にエスケープした、リーディングの授業の課題をしていた。
エスケープしたのはすーちゃんにプリンを買いに行くためだった。朝から顔色が悪くて、それなのにそれを内に隠す彼女が心配だった。
「すーちゃんが幸せな方がいいから。」
「そう思うなら、宮田が委員長を幸せにしてやれよ。委員長は宮田のことを信頼している。」
伊勢谷ちゃんは俺の前では教師という枠が少し外れる。口にくわえた煙草から煙を燻らす。
「伊勢谷ちゃんはすーちゃんのことが好きじゃないわけ?」
「あのなぁ、彼女は生徒だぞ。」
「でも、可愛いと思っているんでしょ?だから、身代わりなんて提案を飲んで、完全に突き放すことをしなかった。」
「……俺があと10歳若くて、高校生だったら好きになっていたかもね。でも、この年で高校生に恋愛する感性は持ち合わせてないね。」
伊勢谷ちゃんは微笑して、吸いかけの煙草の火を静かに消した。
「俺も委員長には、幸せになって欲しいと思っているわけ。そして、それが出来るのは宮田しかいないと思うけど?」
大人びた顔に偽りはない。だから、俺は反抗しないで素直に頷けた。
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