あたたかな夢

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「――?」 何だろう、今の感じ。 胸のあたりがざわざわと音を立て、うっすらと鳥肌が立つ。 じわ、と手のひらに汗が滲んだ。 奇妙な感覚だった。 この本を読んだ記憶はない。それは確かだ。 なのに、――初めて手にしたはずの本の内容を、わたしは”知っている”。 タイトルは『夏目漱石の夢十夜』。 夢にまつわる物語をつづった短編集で、――そう、お話の冒頭はどれも『こんな夢を見た』という書き出しから始まる――。 『――ご乗車、ありがとうございます。間もなく――』 やけに大きな車内アナウンスに、びくりと肩が跳ねた。 勤務先の最寄駅だ。降りなければ。
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