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慌てて立ち上がり、文庫本をバッグに押し込んだ、――その時。
唐突に”そのこと”に気付き、芽以はアッと声を上げそうになった。
弾みでよろけ、咄嗟に傍の手すりを掴む。
――思い出した。
この本をどこで読んだのか。
『――どうしたの? ものすごくヘンな顔になってるよ。可愛いのが台無し』
夢の中で聞いた、からかうような凪の言葉が脳裏をよぎった。
『誰にでも言ってるんでしょう?』
『んー?何が』
『何でもない』
夢の断片が波のように押し寄せてくる。
屋上を吹き抜ける風。
微かな塩素の匂い。
そして――。
フェンスの前に立ち、スカートのポケットに押し込んだ、古い文庫本の感触。
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