あたたかな夢

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「――大丈夫ですか?」 顔を上げると、先ほど目を逸らされた女性が心配そうにこちらを覗き込んでいた。 「なんだか顔色が、ちょっと」 「あ、すみません……大丈夫です。ありがとうございます」 ひきつりながらも笑みを浮かべて見せ、そそくさとドアの前に移動する。 ――どうして――? 混乱しながらも、芽以はバッグの中を探り、もう一度文庫本を取り出した。 『夏目漱石の夢十夜』。 見覚えがあったはずだ。 だって、わたしがこの本を読んだのは、ごく最近――。 ついさっき見た、夢の中だったのだから。
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