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「やばい、来る来る来る」
「だから早く飛べって。大丈夫。しっかり踏み切ればここまで届く。計算上」
「計算って、なんの」
「空気抵抗を有する物体は前方に飛べば放物線を描いて落下するから。真下には落ちない」
何を言ってるのかさっぱりわからない。わからないけれどやけに説得力がある。
なんだかいけそうな気がしてきたのはわたしが単純バカだからだろうか。否定はしないけれどなんか悲しい。
「何も考えなくていい。俺を信じて」
凪はさらに腕を伸ばした。
「大丈夫。――今度こそ受け止めるから」
自信ありげにニッと笑う。
それを見たらなんだかもう、すべてがどうでもよくなった。
こうなったらやけくそだ。望遠鏡をしっかり抱え直し、柵に足を掛ける。
「わたし、結構重いからねっ」
これが最後の言葉になったら空しい。もっとカッコいいセリフを言うべきだった――頭の隅をそんなことがよぎった。
けれどその時にはもう、わたしの右脚はしっかりと柵を蹴り、凪に向かって踏み切っていた。
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