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伸びすぎた前髪の向こう、涼しげな目元に浮かぶいたずらっぽい微笑み。
わたしの名を気だるげに呼ぶ、少し高めの声。
――まったく……。
子供じみたイタズラに呆れながら、光が明滅するフェンスの向こうに目をこらす。
そこに白いワイシャツ姿を見つけ、やっぱりね、とわたしは頬を緩ませた。
「ごめんなさい」
「えっ」
「気持ちは嬉しいけど、わたし……好きな人がいるから」
言い終えてから、遅れて恥ずかしさが湧き上がって来た。
この想いを口にしたのは初めてだ。
まさか本人に伝える前に、他の誰かに打ち明ける羽目になるなんて。
この世の終わりみたいな表情で立ち尽くす下級生にもう一度「ごめんなさい」と頭を下げてから、わたしは非常階段を駆け下りた。
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