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私の頭をポンと一回叩いて、彼が立ち上がる。保冷剤を持っていたせいか、ひんやりした手だった。
「落ち着いたら部屋に戻りな」
「うん。心配してくれてありがとう」
「……あと、理香ちゃんはいつだってかわいいよ」
「え?」
「じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」
「あれ、今日『おやすみ』って言いすぎだね」
「三回目」
「理香ちゃん数えてたの?」
彼が私の方を向いた。
初めて会った時と同じ、さっき姉に向けられたものと同じ顔。
とっておきの笑顔だ。私も声を出して笑った。
彼はもう一度、おやすみと言うと、私に背を向けて立ち去った。
私は一人洗面所に残された。
「あー。もうずるいな」
苦笑いで呟く。
今はまだあきらめられそうにないけど、絶対に彼、いや、陽一おじさんよりもいい人を見つけて幸せになってやるんだから。
初めてそう思えた。
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