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三月も半ばになり、空気や温度が春を知らせ始めた頃。天気の良い日曜日、結婚式が行われた。四つ離れた妹の結婚式だ。
「はーい、皆さんこちらに笑顔をお願いします」
この日のために妹はいくつものウェディングドレスを試着し、悩みに悩んでやっと自分だけの特別を見つけた。
ベアトップはビジューレースで大人っぽく、幾重にも重ねたオーガンジーのフリルが、ウエストから太ももにかけ流れるように付けられ、歩くたびにふわふわと動いて可愛かった。全体がフリルでないことも、決め手の一つだった。
「おめでとう。すごい綺麗だよ」
「ありがとう」
この日ほど、この二つの言葉をたくさん耳にする日はないのでは、そう思うほど妹はたくさんの人から祝福されていた。そしてこの日ほど、みんながお洒落をして、日常を忘れる日もないと一花は思った。
一番後ろの親族席に座ると、やっと一息ついた。この日のために新しく買ったのは、紺のシンプルなワンピースだ。最後に出席した友達の結婚式は、二十代の終わり。今年で三十二になった一花は、その時のワンピースを着るのを躊躇った。
靴もバッグもどれも若い勢いで、可愛さを重視して購入した物だからだ。三十を過ぎた今、着るには痛いと思った。すべて買い替えるには財布が痛かったが、この先のことも考えてすべて購入した。
シンプルな紺のワンピースに、パールのネックレス、バッグもサテンギャザープリーツにパールのついたベージュの物、靴もベージュで揃え、髪も自分で巻くとパールのついたクリップでまとめた。
妹の好きな洋楽が流れたかと思うと、新郎新婦の入場だ。軽やかなテンポに、二人の笑顔が眩しかった。披露宴も進み両親は、相手の両親や親族の元へ挨拶に回り始めた。
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