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人一倍常識人間の明は、今日の自分の行動は我ながらおかしいと解って居たけれど、昨日帰っていく怜の姿を見ながら腹を決めた事に迷いはない。
生まれてきて、考えではなくてこんな感情のみで動いた事は初めてだった。
「僕にそんなことしたって、何にもメリット無いよ。僕が言った事に対して受けた事の責任感?それとも……」
怜は眉間に皺をよせ、顔を少し上げ小さい声で言葉を続けた。
「学校期待の星が、ただの人になった僕への同情?」
触り心地が良く、頭を撫で続けていた明の手が止まった。
「いや…そのことは、俺、知らなかったんだ」
「そうだな、『夏応援絶対しに行く!』って言ってたもんな」
怜は少し笑っていた。
「その事は、ほんとにごめ……」
ちょうどいい機会だと思い、初めて話したときの事を、明が謝ろうとした言葉を遮って怜が話し出した。
「でも、もう知ってるんだろ」
「え?」
「昨日テスト前ん時、『頑張れよ』って言った時の、僕を見た時のお前の目。あぁ知って憐れんでる、って思ったから。僕、同情されるの一番嫌いなんだ」
怜は少し笑ったまま目線を地面に落とした。
明は言い訳する言葉が見つからない。
「ごめん。僕、嫌な事言うだろ。ずーっと相手に向かって球投げてたからさ。人の目や口調や表情で、考えてる事とか,本心とか読み取れちゃうんだよ。時には嫌な物まで見えちゃうから人としては余計なもんだけどさ、勘と同じでピッチャーには必要だったんだ。
でないと、こんな貧弱な身体でやっていけねぇもん」
困った顔をして二の句が継げない明を見て、怜は冗談っぽく自分自身をちゃかして笑いながら話した。
その姿を見て明は重い口を開けた。
「参ったな。もう正直に言うと、そういう気持ち有ったよ。自分の心の中の理由付けにもしてたかもしれない。でもさっき解った。違う。それだけじゃない。変なきっかけで知り合って、お前とつるんで良い事無くても、今まで会った事無い良くわかんねぇ性格でお手上げでも」
明は天を仰いで、深呼吸する。
「おれはただ、純粋に何でか解んないけど、お前の事が気になるからレイのことを考える。拘りたいから拘る。それだけなんだ。だから、さぼってりゃ呼び戻し連れてく,勉強が解んなかったら教えてやる。
飯も一緒に食う,お前が部活辞めた放課後、寂しく独りで帰る位なら自転車の後ろに乗っけて帰るさ。
友達の定義なんて俺には解んないけど、自分の思ったとおりにする。知り合いでも仲間でもライバルでもなくて……
レイの初めての,ほんとの友達になってやるよ」
明の話を聞いた後、怜は寝転んだまま、寝返りを打つようにくるりと明に背を向けた。
「ありがと……」
風の音にかき消されそうな、怜の声を明はかすかに聞けた。
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