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始まりの言葉は-----
どこにでもある子供みたいな一言だった。
郊外の小高い丘の上に在る、名のとおった男子進学校に、渡部 明は通っている。
進学校といえど、文武両道の自由な校風になりたつネームバリューのある学校で、普通に勉強していれば、大半は引き続き名の知れた同じ名前の大学にエスカレーターで進学出来る学校だった。
そんな中…ある意味校風に逆らい部活もせず学校の模試記録も塗り替え、ただひたすら勉強一筋で勉学に勤しんできたのは明だった。
けれど暗い訳でもなく気さくな秀才君としてクラスでは人気者だし、勉強以外もそれなりに卒なく出来る。
見た目も眼鏡はかけているが、きりっとした眉に合い、顔の端正さを引き立たせるアイテムになっている。
これといった運動もしていないのに人並み以上でふざけて友達から言われた
「天は二物をお前に与えてるよな」
という言葉に何の気の衒いも無く
「まぁな」
と言ってしまえる。それも許される明だった。
そんな明の勉強一筋生活が更に拍車のかかる、受験の三年が始まろうとしていた。
明はクラス割りに目を通した。人見知りしないとは言っても、やはり1年間毎日一日の大半を共に過ごす仲間の顔ぶれは気になる。
「良かったー。相川と一緒だ」
同じ6組に数少ない同じ中学出身の親しみある名前を見付けて内心ホッとした。
相川とは同じ中学から一年の時同じクラスで、二年で離れてもそれなりに交友関係は続いている。
新クラスメイトの八割は着席していた。
知った顔,見知らぬ顔色々だったが、見回し
(クラス変わったってやっぱり野郎ばっかしだからむさくるしいな…)
と自分も野郎の一人なのを棚に上げて、明はため息まじりに呟いた。
アイウエオ順になっている座席の中
先頭にあたる窓際の一番前で、明に気付き手を振っている奴がいる。相川だ。
2年で一緒だった藤本達も笑顔で迎えてくれた。
(良い奴ばっかじゃん。楽しい3年を過ごせそうだな。)
と一所安心した後、自分の席に着いた。
明が自分の席を探すのは難しい事では無かった。名字が ワタベ だから。中学の時から最初の席は一番後ろ、と大体決まっていた。
相川の窓側を少し羨ましく思いながら少し薄暗い廊下側の一番後ろに座ろ。人数の関係か、横を見ても後ろに一人飛び抜けている席。
ちょっと浮いてる感じがして寂しさを覚えながら、頬杖えをついてHRが始まるのを待った。
すると、前の席に座ってた人物がいきなり振り向いてきた。
「へっ?!」
明は頬杖をついていたため机の前方に顔がある状態で、振り向いた顔と物凄い至近距離で向き合う。
一瞬にして視界全体に顔が飛び込んで明は驚いた。
振り向いた顔は今までクラスを共にした事も無い顔だ。
日に良く焼けた顔で小さい顔が余計に締まってみえた。長めの前髪がさらりと斜めに流れ。
まっすぐで長い睫と、猫のように大きな目が好奇心一杯に輝いている。
つんとした鼻の下で形の良い口が口角だけを上げてニヤリと笑っていた。
明は突然の出来事にドキドキしながらも、ドアップの顔のパーツ一つ一つをまじまじと見つめた。
飽きずに見入れる顔を眺め続けていると
「……僕と、友達になってよ」
ニヤリ笑いしていた口元が動き、明に投げかけられたのはこの一言だった。
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