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トントールは死体の始末をつけるために葬儀屋を呼んできてやろうという道徳心で出口に向かっていた。若い頃は自慢にしていた金髪もすっかり薄くなり、自分の店で仕入れた派手なハンチング帽を被って頭を守っている。恋女房はあまりそれを好まないらしいが、一番の気に入りであった。その帽子を一度脱いで、つるりと頭を撫でまわしたトントールは、困った風で店内に助けを求めた。
トントールの肥満した体に隠れていた「チビ」が、トントールが振り返ったことで初めて店内の他の客からもよく見えた。栗色の長い髪をおさげに編み込んで、細かな花柄のワンピースを着ている少女。そばかすだらけの顔にブラウンの瞳。
「どこの農場で鶏の卵を拾っていらっしゃるお嬢さんかな?」
客のひとりがそんなことを言ったが、少女はまるで無視して三歩だけ店内に入ってきた。深呼吸してゆっくりと周囲を見渡すと、震える声で叫ぶ。
「お願いします!どなたか、姉さんを助けてください!取り返してください!」
その声は、汚らしい口髭の芝居など問題にならぬほどに、切迫していた。
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