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 アミリア大陸のほぼ全土を統治するエドクセン王国のはじまりは、戦火に包まれていた。フィリツ家初代トライン・フィリツの時代は、戦乱の時代であった。トライン・フィリツとイーデロ・フィリツの二代にわたり戦い抜いた時代があったらばこそ、エドクセン王国は政権を維持できたのである。  その先代・先々代の事業を引き継ぎ、現在の広大な領土と安定した政権の獲得を果たしたのが三代目タンリツェン・フィリツである。この男は各地の争乱を平定すると、後星暦1493年、アスキアを王都としたエドクセン王国の建国を宣言し、この年を以て元年とするエドクセン王国暦の使用も始まった。  それから二百余年が経過した。現国王リトレ・フィリツは十四代目に当たる。長く続いた泰平に慣れきって堕落した血統は、今や神輿の上の権力者の顔に建前の化粧をすることも知らなかった。後世に"王国の寿命を縮めた最大の功労者"と評されるこの王は、金と権力と美女とに耽溺し、青春を使い切った。眼前に迫る老いと後継者問題に頭を悩ませるふりをして、最近新たに迎えた若い側室の膝枕で眠るのが日課の老人である。  この男にも兄弟はあった。その中からこの男が世継ぎに選ばれたのは優れた指導者になることを期待されてのことではない。この男は、フィリツ家代々の当主と比肩しても優れていると言っていい、強大な魔力を有して誕生した。その"偉大なる"魔力をどう使うかはともかくとして、そこだけを評価されたのである。     
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