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「その男の人は、"ノックしてやったのに無視するとは、失礼だ"とか、なんとか、そんなことを怒鳴っていました」 侵入者の男は髭のない顎を撫でまわしながら値踏みするように室内を見回していた。明るい茶色の頭髪は少し長めにきれいに切り揃えられており、風で乱れたのが気になるのか、前髪をうしろにかきあげる素振りは気取っていた。背は高くなかった。眉毛が薄く、嫌な感じのする顔であった。 「おじいさんが怒って、入り口の方で怒鳴りあいが始まって……。ドアが壊れたとか、元々ボロだったとか。ぜんぶは聞き取れなかったけれど、男の人が、ずいぶん無茶を言っているような気はしていました」 訳が分からず、とにかく恐ろしくて、アルフィナはとなりに座っていた姉の腕に縋りついた。五つ年長の姉も表情を強張らせながら、妹の頭を胸に抱きしめてやった。侵入者のいやらしい目が、そのとき、すぅっと滑って姉妹を見た。ニタリと笑った顔の薄気味の悪さ!アルフィナは背筋に走った震えに、思わず、姉の胸に体を押し付けた。     
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